真っ暗な世界で

すっかりと忘れていた、ほんの数ヶ月前の記憶。


あの拷問の詳細は知らないが、幹部の中で物議をかもす程のものだった。


俺でさえ忘れていたものをあいつらは覚えていたのか。


それだけ衝撃的だったってことだな。


津波のように襲い掛かってくる悔しさから少しでも逃れてしまいたくて、一人でそう自己完結させた。


意識を他のものに向けるために、先ほどまで見るのも嫌だった書類に手をつけた。


その時だった。


「山崎さん、いらっしゃいますか!?」


隊士の一人が屯所を大声を出しながら山崎を探す声が聞こえた。


その声は焦りを隠すことなく必死に山崎を探す。


隊士が斬られたか?


俺は書類を書いていた手を止め、襖をあけた。


隊士はちょうど、俺の前を通り過ぎた。


「おい!どうした」


俺が話しかけると、初めて気付いたような顔をした後、焦りながら俺に言った。


「春さんが……!」


その後、その隊士が何を言ったかは覚えていない。自分で言ったこともうろ覚えだ。確か、山崎の居場所を教えた気がする。


我に返ったのは、春が粛清をしにいった、ねぐ屋の隣の廃屋についた時だった。


噎せ返るような血の臭い。


慌ただしく出入りする、隊士。


両脇を抱えられながら連れて行かれる浪士。


そして……


「ハルッ!ハルッハルッ!!」


「しっかりしろ、春!」


血だまりと死体に囲まれながら、横たわる春。


春が、倒れている…………?


未だ、呆然とする頭に浮かんできた、一言。


「副長、すみません!」


ドンッと山崎に背中を押される。


力が入っていなかった俺の体は廃屋の外へと追い出された。


山崎は相当慌てていたのか、半襦袢に羽織を羽織った状態で治療道具を持って、春のもとへと走った。


「灯り!!もっと灯りを持って来い!」


「はい!!」


山崎に言われ、複数の隊士が持っていた提灯で春を照らす。


それと一緒に周りも照らされた。