真っ暗な世界で

あの後、春は荒木田から残る間者の名前を吐かせた。


俺が半日ぶりに蔵に行くと、蔵は荒木田の血で壁と床は染め上げられていた。


蔵の中心には、虫の息で横たわる荒木田。


その目には布が覆ってあり、俺が歩くたびにその音に飛び上がっていた。


「春の拷問はどうだった?荒木田」


「……ひじ…………かたさん…………あ……いつは……はる……は…………猛獣だ……」


荒木田は息も絶え絶えになりながらそれだけ言うと、気絶した。


んなこと、わぁってんだよ。


俺はこの蔵に入ったとき、確信した。


春は、俺がきちんと首輪をつけておかねぇといけねぇ猛獣だって。


常人は例え拷問であれど、壁と床を血塗れにはしない。


それに、この短時間で三人もの仲間を吐かせたことは中々できる事じゃない。


さらに春は人が弱くなるときを、瞬間を、状況を知っている。人の心理を理解していないと出来ない芸当だ。


あんなに小さな体にそれが染み込んでいる。小さな狂気があいつの体のどこかに潜んでいる。


それだけで、春を猛獣と判断するには十分だ。


春は近藤さんでこの新選組と繋がっている。もしも近藤さんがいなくなるようなことがあれば、俺だけでは春を新選組に縛り付けることはできないかもしれない。


平隊士にそんな焦りを感じることはまずないのに、春には、春だけには何故かそんな焦りを感じた。


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