真っ暗な世界で

「土方さん。失礼します」


「あぁ!?ガキが入るとこじゃねぇぞ!!」


苛ついて、八当たりした俺に構うことなく、春は蔵の中へ入ってきた。


春は蔵の中に蔓延する異臭に思い切り顔をしかめた。


やっぱりな。


春にここは耐えられないと思った俺は先程より冷たい声で春を追いだそうとした。


「わかったろ!!さっさとでて……」


「土方さん。刀を貸してください」


「…………は?」


追いだそうとした俺の言葉を聞かず、それどころか俺に刀を貸せといった春に一瞬、首を傾げた。


未だに春の言ったことを理解できずにいると、さらに続けた。


「俺が、やります」


春は俺に近付くと、俺の右腕を探した。


そして、その右腕を伝い、刀をゆっくりと俺からとった。


「あ……ヴぅ……」


荒木田が僅かに発した呻き声に反応して、春は荒木田のほうへと向かっていく。


そこで、俺ははっと我に返った。


「春!!だめにきまってんだろ!」


急いで春の刀をもつ腕を掴むと、春は一瞬体を強張らせた後、俺を見た。


見たといっては語弊がある。


俺がいる方に目を向けたといったほうが正解だ。


深すぎる黒の瞳には俺の姿は映らない。


だが、俺はその黒い瞳に射抜かれたような感覚を抱いた。


体が地面と一体化したように動かない。


……っ、なんだこれ!?


「これ以上、土方さんがやっても、土方さんの体力の無駄です」


春の言うとおりだった。


昼餉も食べずにやり続けた俺の体力は着実に限界へと近づいていた。


俺がやっても、荒木田が口を割るとは考えにくい。


ならば、春に頼むのも有効な手だ。


俺は、掴んでいた腕を離し、蔵から出た。