咲洲は私をささえることが出来ずに二人で床に倒れる。


いつもは受け身が出来るけど、咲洲がいるし、背中の傷が痛すぎてなにも出来なかった。


ドンッと床に倒れると、傷がさらに痛む。


焼けるように痛い。


「ギャッ…」


浪士の断末魔が聞こえる。斎藤さんが始末してくれたんだろう。


「ハル!ハル!しっかりしろよ!!」


いつの間に起き上がったのか、私の肩を掴み、必死に私に話し掛ける。


「至急、山崎を呼べ!!」


斎藤さんがあんなに狼狽するほど、私の傷は酷いのだろうか。


背中に布のようなものを押し当てられる。


だけど、血は止まらない。


私は、死ぬのだろうか。


朦朧とする意識の中でボーッとそう思った。


実感がない。激しい痛みとそれを上回る眠気が私の瞼を閉じさせようとする。それだけだ。


明日、また何事もなかったかのように目を覚ます気でいる。


「ハルッ!ハル!…………なんで、助けたんだよ!私のこと、嫌いなくせに」


嫌いじゃない。苦手なだけ。


私の頬にぽつりと一粒の雫が落ちる。


雨、降ってないのに。


だけど、すぐに雨ではないことを知った。


咲洲の小さな嗚咽が聞こえた。


咲洲は、泣いてるんだ。


私は、無意識に咲洲の頬を探した。


力のない手で、涙が落ちてきたところを辿って、彼女の頬に触れたかった。


安心させてあげたかった。


私の心にこんな温かな感情、あったんだ。


そして、私は彼女の頬に触れた。


「……ハル?」


─────泣かないで、夏希ちゃん。


私が心の中で呟いた言葉に、自分自身で驚いた。


夏希、ちゃん??


なんで、彼女が、出てくるの?


「………ほんと、バカ、ですね」


私の思考回路が真っ白になっていく。


そろそろ限界のようだ。


私は眠気に負け、瞼を閉じた。


瞼を閉じると、2秒で私の意識はどこかへ飛んでいった。