仲間が来たから安心したのか、ただの疲れか、斎藤さんがこちらに来る足音を聞いたとたん、私の膝が力を失い、その場に崩れ落ちた。


「おいっ!」


斎藤さんが倒れた私を抱き起こしてくれた。


でも、体が動かない。息も上がったままだ。さすがに一人で100人はキツかった。


「…死者51名、気絶している者49名」


小さな声で報告する。斎藤さんに聞こえるようにするのがやっとだった。情けない。


「っ!気絶している者を探せ!みつけしだい縄にかけろ」


斎藤さんは私の言葉を聞いたあと、部下に指示を出して、私を抱き上げた。


宙に浮くのはやっぱり慣れない。けど、体が動かないんだから、そんなこといってる場合じゃないんだ。


「ハルッ………!」


入り口の方から咲洲の声がする。


どうして、彼女がいるの。まさか、斎藤さんが連れてきたの?


「…ッ!?咲洲!?」


慌てた斎藤さんの声。


私の思っていたこととは少し違うようだ。


バカ…じゃないの?死体なんか見たことないくせに。こんな血生臭いところに飛び込んでくるなんて。


「……………ッ!!こ、れ」


ほら、この状況に耐えられないじゃない。さっさと帰りなさいよ。ここじゃ、平和ボケしたあなたは足手まといなの。


「ハル、大丈夫かっ!?」


咲洲は私の思いに反し、斎藤さんに抱き抱えられた私のところにやってくる。


焦ったように咲洲の手が優しく私の頬に触れる。その手はひどく震えていて。


なんで、帰んないの?ほんとはここにいるのもキツいくせに。


つくづくあなたの考えることって、理解できない。


「…………っ、うわぁぁぁぁあ!!」


咲洲の背後から気絶したはずの浪士の一人の雄叫びが聞こえた。


声の大きさからして、約50mほど先か。


周りに隊士はいないらしい。慌てた隊士の声が少し遠くから聞こえる。


つまり、ここには私と斎藤さんと咲洲しかいない。


咲洲は私に背を向ける。頬あたりに肩甲骨が当たった。


ははっ………。ほんとバカ。あなたに私を守れるわけないでしょ。


そう思った瞬間、何故か体が呪縛から解き放たれたように動いた。


私はとっさに咲洲の肩を掴み、その勢いで私の体を反転させ、咲洲を抱き締める形になった。


その瞬間に私の背中を浪士の刀がザシュッと斬る。


背中に味わったことのない激痛が走った。


「っ!!!」


「ハルッ!?」


「春!」