真っ暗な世界で

「……ま、いいや」


菊田さんも教えてくれなかったし、大した重要なことでもないんだろう。


心に少し引っかかるものを感じたが、さほど気にすることもせずに屯所へと戻った。


「春」


屯所に戻り、久しぶりの休憩に中庭でお茶をすすっていると、怒りのような、焦りのようなものが含まれた斎藤さんの声がした。


「あの菊田という男は、男色なのか?」


私の隣に座って、いらついたように聞いてきた。


珍しい。こんなにも斎藤さんが怒ってるなんて。


男色なのかと聞くあたり、先ほどのことを見ていたのだろうか。


「多分、違うと思いますよ」


「ならば、なぜあんなこと……」


「あんなこととは?」


多分、あのよく分からない感覚のことなんだろう。


「だからっ………そのっ…あんたがされたことだ!!」


口ごもりながら恥ずかしそうに言う斎藤さん。


なんで、そんなに恥ずかしそうなの?


私は首を傾げた。


そうだ、斎藤さんに教えてもらおう。



「あれは、なんなんでしょうか?」


その瞬間、斎藤さんの雰囲気がピシッと冷ややかなものになる。


「あんた…………知らないのか?」


「はい」


「そ、そうか………」


独り言のようにそう言うと、スッと隣にあった温かな雰囲気が消えた。


「なら、あんたは知らなくていいのかもな…………」



斎藤さんはどこか思いに耽るように呟くと、いなくなってしまった。


菊田さんと斎藤さん。二人とも一体どうしたというのだろうか?