月の女神



すると彼女は、首を左右に振る。


「ぶつかったんです」


ぶつかって転んだんだ。

だけど、そのまま返したりしない。


「あのミケ猫と?」


「……は?…ミケ猫?」


きょとん、と聞き返してくる彼女。

「っ…」


手を動かして傷口を消毒すれば、

やっぱり滲みたのか顔を歪ませた。

ごめんね、痛いよね。


できるだけ痛くないようにしてるんだけど…。

思わず手を止めてしまい、続きを話す。


「だから、ミケ猫とケンカしてたんじゃないんですか?」

ぽかんとしたままの彼女に笑顔を向ける。

僕では、
君と同じ高校の教師としての僕では、

君を助けてあげることができない。

君もきっと、僕と同じ高校だと思い出せば拒絶するだろう。何も知らない、君のことが分からないとしていた方が、君も少しは僕を頼ってくれるんじゃないかな。