僕が握っていたその腕に右手を添えて、後退して距離を取る。
振り返ってみれば、眉に皺を寄せて僕を見ている彼女。
まるで、警戒している猫。
「……なんなんですか」
小さく、問いかけられた声は警戒しているその姿勢からはちょっと弱い小さな声で。
「……だから、腕、手当」
してあげるから、家へおいで。
警戒しつつもどことなく怯えているように見える弱々しい彼女に、声をかける。
彼女の顔から腕へと視線を移せば、僕の視線を追うように彼女も自分の腕を確認して。
それから、僕を見る。
「手当するから、おいで」
大丈夫だから。
手当してあげるから。
できるだけ彼女が安心できるように、優しく告げる。
いきなり声かけられて、引っ張られて家に連れ込まれそうになったら誰だって驚くよね。
警戒するのが当たり前だ。本当は無理矢理でも家に連れて行って手当したいけれど、それじゃあ不審者と一緒になってしまう。
あくまで彼女の気持ちを優先してあげなければ。
ついてこないで、逃げられたらそれまで。
ついてきてくれたら、丁重にもてなしてあげよう。
そう心の中で思いながら、階段を上がる。
上がってきてくれないかな、と願いながら。



