月の女神

黒いワンピース、黒い髪、肌はすっごく白いけれど、まるでさっきの猫が化けたみたい。


…そうだ。さっきの猫みたいだ。


ひらめき、のような感覚。


明らかにおかしいけど。


絶対、頭のおかしい人かと思われるかもしれないけれど、本当のことを話すよりも、そっちの方が都合がいいかもしれないと思ったから。


掴んだ腕を引っ張りながら、すうっと空気を吸い込んで言葉をかける。



「ちょっと手当の道具持ってくるから待っててって言ったのに!せっかく手当しようとしてたのに!どうして逃げようとするかなぁ。さ、入ってください」


くいっと引っ張れば、彼女の腕に力が入る。


「ちょ、待って」


その言葉を聞かずに、続ける。

「手当してあげるって言ってるんです。あ、ついでにミルクも飲ませてあげますから」


「は、ちょっ」


さっきの猫に言うように彼女に言って、アパートへと向かう。


だけど。


「離してっ」


ぐっと抵抗されて、僕の進みたい方とは反対にひかれた腕。

引っ張り合いになれば痛いだろうと、僕はすぐに手を放した。


それにまた彼女は驚いたのだろう。あっさりと手を離されるとは思っていなかったのかもしれない。