月の女神


自分で言っておきながら、

僕は馬鹿だなぁと思った。

言った瞬間、後悔した。もっと、マシな言葉を言えたはずなのに。

今の発言を取り消したい。

そう思ったけれど、すでに僕の口からこぼれて彼女の耳へと入って行った言葉は、取り消すことなんかできなくて。


「…………は?」


ぽかん、と。

叫ぼうとしていたのか口を開いたまま。

びっくりした顔で僕を見つめ返す顔が視界に映る。


…とりあえず大声で叫ばれる、なんてことは阻止できたから良かったけれど。

さて。これからどうしようか。


意味が分からないと言う顔で、彼女は僕の顔を見つめてくる。

僕のこと、覚えてくれているかな…と思ったけれど、じいっと見つめたままの様子を見ると、どうやら僕のことは覚えていないらしい。


自己紹介をしようか。

どうしようか。


迷って、彷徨わせた視線の先。


目に入ったそれに、また、びっくりした。


…一緒だ…。


さっき見た、黒猫が右の前足に負っていたケガ。


そして、この子も僕が掴んだ腕の少し下。派手にこけたのかな?広範囲に擦り傷。



血も、滲んでいて痛々しい。



気付かずに掴んでしまったけれど、痛くなかったかな。