あっちは…。
この地域の眠らない街。と言われている繁華街。
まだ補導されるような時間ではないけれど
母親が倒れた状況で、あんな所へ遊びに行くような子だとは思わない。
―――母子家庭で……いつ目覚めるか――
――過労で倒れるくらい働いていたんでしょうね――
河西先生たちが話していた会話が蘇ってくる。
…なんとなくだけど。
当たってるかどうかは、分からないけれど。彼女が何をしようとしているのか分かってしまった気がして。
こんなところで彼女と遭遇してしまってびっくりしているけれど、頭は割と冷めていた。
――今しかない、と思った。
ここが、学校ではなかったことが、僕に勢いをつけたのかもしれない。
詳しく考えるよりも先に、歩いていく彼女を追いかけて。
そして――――
「―――見つけた!」
…咄嗟に出した声は、自分でもどうしてこれなんだろうと思った。
彼女を呼び止める為に出した声。
話しかける緊張で、思ったより大きな声が出て。
まさかいきなり声をかけられるなんて思っていなかっただろう彼女は、声をかけたと同時に驚いたのか体を跳ねさせた。
……掴んだ腕はやっぱり細くて。
呼び止める為にとそんなに力なんて入れてないのに、細い彼女はふらふらっとよろけてわずかに後退する。
何ごとかと振り返って僕を見た瞬間、怯えた顔をした彼女。
すっと何か叫ぼうとしているのが分かって、それは困ると慌てて言葉を紡ぎだす。
「君、さっきの黒猫だよね!?」



