月の女神

せっかく消毒してあげようと思ったのに。今なら、美味しいミルクと涼しい家までついていたのに。


まだ遠くに行ってはいないだろうし、そのまま目をこらしながら辺りを見渡すけど猫は見つけられない。…大丈夫かな。無事ならいいんだけれど…。



もともと野生だし、人間が助けてあげなくてもある程度は大丈夫かな?最後にもう一度見渡して、帰ろうと視線を動かす。


……と。


「―――!!」



ドキッとした。


今僕が探していた……

猫、ではないけれど。



さっきの猫のように、僕が助けてあげたいと思っていた、その子が。


目の前を、通り過ぎて行ったから。



暗いけど、見間違えるはずがない。


制服でもなく、黒いワンピース。胸のあたりまである黒い髪はすべておろしていて。ワンピースから伸びる手足は、やけに細い。

ゆっくりと歩いていく、その姿。


また今日も、病院の帰りなのかな?…と思ったけれど、様子からしてそうは見えなくて。


それに、彼女が歩いてきた方向。病院のある方向とは逆で。