月の女神



そのあと

英語科へ足を運ぶことは全くなくて。


たまに、

本当にたまに、

見かけた時に見る彼女は、いつも友達と楽しそうに笑ってる姿だった。


あの子の言葉に僕は助けられた、という気持ちはずっとあったけど

あの子の存在自体はいつの間にか記憶から薄れて消えつつあって。

その名前を久しぶりに聞いたのは、教師になって2年目の夏休みが明けてすぐだった。





「――松岡さん、どうですか?」


職員室で英語科を担当している河西先生と話していれば、養護教諭の江藤先生が声をかけてきた。



松岡さん…?


あぁ、松岡月菜さんか。


ふっと、忘れかけていた彼女が頭の中に思い浮かぶ。


「あぁ、」と眉根を下げる河西先生。


何かあったのだろうか。



「松岡さん…どうかされたんですか?」


河西先生と江藤先生に聞けば、二人とも同じような顔をする。


「先日、お母さんが倒れられたらしくて…」

「えっ?」



「原因はストレスや疲労らしいんですけど、未だに目を覚ましてないらしいです。それで、松岡さんずっと学校休んでいるんですよね?」