俺は陸上をやめたことを母さんには言ってなかった。
部活に行っていないということを母さんに言っていなかった。
「瞬……あなたがつらいことわかってる。だから……無理しなくていいの。瞬が走りたくなかったら走らなくていいの。瞬のしたいようにやりなさい。
あんたがどれだけ後ろ指を指されようが、批判されようが、母さんはあんたの味方だから。しっかりやんなさい」
そう、少し目に涙を浮かべて母さんは俺の背中を押してくれた。
ありがたかった。
弱音ひとつ言わずに働く母さん。
俺のために、ただがむしゃらに前を向こうとしている母さん。
胸が熱くなったのを覚えている。
唇をかんで、泣くまいと下を向いたのを覚えている。
俺にかすかな光を母さんはともしてくれた。
転校前の最後の登校日の放課後、菅先輩が校門で俺のことを待ち伏せていた。
「よぉ」
ニカっと笑って、いつもみたいに俺を見下す菅先輩。
「なんすか」
俺は、一応立ち止まって菅先輩を睨む。



