こいつを走らそうって。
あたし、負けず嫌いだしこんなとこで引くもんかっ!
こいつの過去に何があったか、あたしは知らない。
知ったところできっとあたしの考えは変わるとは思わない。
あたしは見てしまったから。
こいつの走りを。
こいつが、風になれるということをあたしは知っているから。
だから、これはランナーとして譲れない。
「あたし、知っているんだよ。勝木が陸上部だったってこと」
あたしの言葉に反応して、一瞬だけ、あたしのほうを見た勝木。
「だから何?俺に入れってか?」
「そう」
「入らねぇよ。絶対に。俺はもう走らねぇ」
……やっぱり、あかね先輩の言っていたことは本当だったんだ。
こいつが、陸上辞めるためにここに来たってこと。
「おー遅れて悪いな。授業始めるぞ」
ちょうどそこへ入ってきた、1限目の古典の先生。
もうちょっと遅れてきてもらってもよかったんだけど。
そう思いつつあたしは勝木に向けていた体を前に向けた。



