「記憶…?ああ、もどったよ。何もかも、思い出した」
あたしはそういって笑顔になる。
辺りはあたしの言葉で何故かシーンとなった。
そして、改めて周りを見てみると、そこには陸部の皆、家族の姿があった。
紗名を含め、女子の長距離の人たちはもう皆涙をボロボロと溢していた。
他の人たちも、今にも泣きそうな、そんな表情をしていた。
かけがえのない仲間の存在があたしにはあった。
__ねぇ、拓夢と啓太みてる?
あたしの得たもの分かったよ。
それはね。
大きな大きな"愛"。
失うばかりじゃなかった。
事故に会わないとこんなこと、気付かないよ。
あたしをこの世界に戻してくれてありがとう。
そっと、あたしは心のなかで唱えた。
"ありがとう"と、何度も……何度も……
「うはははっ!流石は俺の娘だな」
一時の沈黙を破って、笑って来るのは、缶コーヒー片手に壁によしかかっていたあたしの父だった。
お母さんはその隣でポロポロと涙をこぼしていた。
「さささ、ちょっと2人にしてやろうなーっ!」
そういって、お父さんは同じく病室にいた何人かの陸上部員とともに病室を出て行った。
だけど、一人だけ反対する人がいて……
「え?ちょっと待ってくださいお父さんっ!なんで、澪と瞬を二人だけに……!?」
コウ……あんた、あたしのお父さんのこといつの間にお父さんってよんでんのよっ!
と、あたしは1人ツッコミをいれる。
「はいはい、バカは退散っ!じゃあね、澪。明日また来るよ」
そう言って、わーわー言うコウを無理やり紗名が引っ張って、病室のドアが閉められた。
久しぶりの二人だけの空間ができる。
瞬はなんの動揺もしない。
こっちは、ドキドキし過ぎてヤバイっていうのに……。
ってか、なんで、皆こんな二人っきりにしてみたの?
あたしの好きな人バレているとか?イヤイヤ……そんなに態度には出ていなかった……はずっ!
そんな、ことを考えながらチラッとあたしは瞬の方を見る。
相変わらずの綺麗な顔がそこにはあった。
……あれ?
あたし、なんか大事なこと忘れているような……あ!!
「え、ちょっと待って、瞬。あたしの質問に答えてよ」
あたしは、身を乗り出して瞬の方を今度はじっと見る。
「……優勝した。当たり前だろ?俺なんだから」
そういって、瞬は力が抜けたように、近くにあった丸椅子に座りこんだ。
優勝……?
やっぱり、こいつは本物なんだ。
こいつは、やっぱり陸上には欠かすことの出来ない存在。
胸が温かくなる。
だけどね、少しだけ……ほんの少しだけズキッと胸が痛んだ。
「……そりゃあそうか……。ふふふっ!なんか瞬と話すの久々な感じする」
何故か、笑みがこぼれるあたし。
この、胸の痛さを瞬に悟られてはいけない。



