「瞬……だったな……。君は……澪の記憶を取り戻そうとしているのかい?」
とても直球な質問だった。
「いや……おばさんの前では、ああいいましたけど、実際どうしたらいいのか俺にはわかんなくて…。あいつの記憶を俺が全部話してしまえば、あいつは記憶を取り戻すんじゃないかとは思うんですけど、それはなんか違う気がして……。
多分、俺だけじゃないです。こう思ってるの。シマも、紗名も、先輩方も皆どうすればいいのかわかんなくて、こうやって日々を過ごしてるんです。
おじさんは……いい答えを知っているんですか?あいつの記憶を手っ取り早く取り戻す方法を。」
おじさんは、手に持っていた缶コーヒーをくいっと飲み干してから、再び俺の目を見てきた。
「俺は医者で、これまで、澪みたいな目にあった奴をたくさん見てきている。そして、決まってお前をはじめとする、澪を取り巻いていた人たちは困惑するんだ。
どう、相手と接すればいいのか……これから何をしなければいけないのか。
俺はそんな人たちに決まってこういうんだ。
”自分の信じたことをやればいい。普段通りに笑顔で接してやってくれ”ってな。
あのな、医者って言うのは確かに怪我した奴らとか、病気の奴らの体は最善策を施して処置してやる。だけどな、心って言うのは医者が治すもんじゃないんだ。俺たちは治すことはできないんだ。
俺をはじめとする、瞬や紗名、陸部の仲間や澪のクラスメイトの奴らしか、澪の心の傷である記憶を取り戻すことはできやしないんだ。ここに医者は入ることはできないんだ。
あるやつが言ったんだ。
Let us, then, be up and doing, With a heart for any fate.
それでは、立ちあがり、行動しよう。いかなる運命のもとでも、精いっぱいに。
どんな時にでも行動あるのみだ。立ち止まるわけにはいかない。それはお前もわかっているだろう。
澪はな…母である紗子に毎日言っていたそうだ。
”瞬のように、あたしも人を感動させやれるような走りをしたい…あたしも風になってみたい”ってな……
お前の走り……あいつに見せてやったらどうだ?きっと、笑顔になるぞ。」
そういって、優しく微笑んでくれたおじさん。



