だけど、10秒代で100m走る人なんていなかったと思う。
速くて11秒代前半だったような気が…。
なんで、そんな選手が鷲松に……?
「陸上から離れたい選手らしい」
あかね先輩の言葉は重かった。
さっきまで、声を上げていた先輩たちも口を閉じた。
あたしの心に何かズーンと重たいものが落ちてきた。
陸上から……離れたい……?
あたしにとって、陸上は唯一あたしが夢中になれるものであり、生きがいと言っても過言ではない。
ここにいるメンバーはきっとあたしと同じ思いを持ってここにいると思う。
”走ることが好き”
その気持ちだけであたしたちはここまで来た。
どんなに苦しくても、泣きたくても、辛くてもその気持ちがあったからここまでやってこれた。
だけど、現に陸上をやめたい奴だっている。
たとえ、エリートであったとしても。
神様から与えられた才能を持っていたとしても……。
でも……なんで……?
「……っ!なんで、その1年は離れたいって思ってるんですか?」
あたしはゆっくりと口を開いた。
「さぁ……。それは、あたしにもよくわかんないんだけど……。
聞いた話だと、その1年はさ、無理やり入れられたみたいなんだよ。追川の陸部に。
だけど、部には1度も顔を出さなかったらしくて、そのまま転校って形になったらしい。
あそこの陸部は特待制度だから、陸部をやめる以上、高校に居られないでしょ……?」
「……そう……なんですか。」
追川の推薦を受けるということは、そうとうの実力者のはずなのに……。
なんで走らないんだろう……。



