美しすぎる魔女の誘惑のキス

入学してはや一ヶ月。

黒い王子。 そんな噂を耳にするようになった。

6クラスあるこの高校は、クラスが違えば棟も違うクラスもある。

そのため知らない人がほとんどだ。

この黒の王子って言うのも会ったこともなければ見かけたことも、聞いたこともないような人だった。

黒田隼人。

Sっ気の入ったイケメン。 一見不良っぽいが、笑った顔が子供みたいで可愛い。らしい。

その内会うだろう。ちょっとした楽しみとして頭の片隅に置いておいた。

けれど、それは案外早かった。



……初めての男女合同体育。

私たち1組と4組。

ここの学校は体育大会で赤、青、白組に別れて戦う。

赤は1.4組 青は2.5組 白は3.6組。

体育大会のことも配慮した結果がこれなのだろう。

暖かい、ちょうど良い温度の中、男子と一緒だからか少し熱気が篭っている体育館。

「夜神月さーん、行ったよー!」

緩やかなカーブを描いて向かってくるボールに構えの姿勢を取る。

よし、イケる! バレーは昔から好きな方だった。

ボールを打ち返せた時のあの興奮は病みつきになるほどのものだ。 だからこそこの一球をきちんと打ち返そう。

そう心に決め、ボールを打ち返す、といったところで悲鳴にも似た声と大きな衝撃が来た。

「きゃー‼︎ 夜神月さんっ‼︎」

クラクラとする頭の中で立花愛梨のやたらと高い声が響く。

背中には暑さのせいか少し暖かい床、そばに転がるボールに全てを悟った。

………そーいや、男子バスケだったわ。

まだクラクラと揺れる意識の中で立たなくちゃと足に力を入れる。

いや、待てよ?

立花愛梨の無駄に大きな悲鳴のせいで、私がこけた姿を皆に見られてしまったわけで…

これで立つのには勇気と覚悟が必要。

…これが人生、厳しいな。

やっとのことで上半身を起こすと、視界がスッキリとしてきて、本当の景色が見えてきた。