美しすぎる魔女の誘惑のキス

大きな桜の木の近く。 窓辺の席から見る景色。

本物の桜の花を見るのが1番綺麗だと言う人がいるけれど、私は本物の桜を見るよりも繊細なタッチで描かれた淡い桜の花の方が好き。

絵ならいい所しか描かれないから嫌われることも嫌うこともない。

どんなに綺麗な花でも近くで見たら花びらが食べられていたり、虫がたくさんいたり、もうすぐ枯れそうだったり…悪い部分がどんどん見えてくる。

なんであれ悪い部分があるのだから。

人間だってそう、絵のように美化してくれる物がないのだから近づけば近付くほど悪い部分が出てくる。

それなのにこうして自ら近づこうとする。

そうさせる季節が春だ。

「よし、じゃあ1番から自己紹介していくぞー。」

担任の一声でクラスメイトたちが緊張した面持ちで自己紹介を始める。

私はそんな無意味なことは御免。

無関心な自己紹介に背を向けるように顔をそらす。

退屈な現実と距離をおかせてくれる心地いい風に小さな感謝をしながらそっと口角を上げた。

暖かい春の日差し、可憐で清らかな花の香り、その全てに小さなため息を漏らし、感嘆の表情を浮かべる。

しかし、鈴を転がしたような可愛らしい声に現実へと直ぐに引き返される。

「白鳥桃華です。 えっと、料理と裁縫が得意です。 あ、あと紅茶を飲むのが好きです。よろしくお願いします。」

…白鳥桃華。栗色の緩く巻かれたセミロングの髪が動くたびにふわふわと揺れている。
笑うと小さなえくぼができる可愛らしい笑顔は癒し系のそれだろう。

色の白いきめ細やかな肌に目を奪われる。それに映える薔薇色の頬、唇。 笑顔が可愛いのが第一印象。

でも、こいつもぶりっ子か。

自己紹介で料理裁縫、家庭的な女アピール。そして紅茶でおしゃれでしょ?
典型的なぶりっ子自己紹介。

こいつのボロを見るのは楽しそう。

他のクラスメイトよりも断然可愛いお姫様。

お姫様の裏の顔はどーんなの?

考えただけで面白そう。

「よし、じゃあー、夜神月。」

今度は私に視線が注がれる。

どの視線も私が噂通りの女か見定める目ばかり。

この視線を浴びせられるのは慣れた。 どんな人も決まってこの下品な目つきで見てくるのだから。

これが私の諦め。

「夜神月 芽依です。」

一呼吸置いて、じっくりと一人一人の顔を見る。

その中の1人、白鳥桃華と目が合う、少し驚いた顔をしてはにかむように微笑まれた。

「皆さん私の噂を聞いていると思います。…あの噂はほんとうです。 私はいじめられた仕返しにその子の彼氏を奪いました。 以上です。」