車で家の前まで送ってもらい
別れを告げる。

車が走り去るのを見届け、振り返ると
ちょうど帰宅してきた
八重が立っていた。

「あ、八重。おかえり。」

「あぁ…」

相変わらずそっけない返事。

「今の…内緒ね。」

これは紗南の意地だった。
自分にだって男がいる。
そう思わせたい意地。

「男?」

八重が少し興味を持ったようだった。
コクンと頷く。
しかし、すぐ後ろを向いて
家に入って行こうとする。

「八重。」

紗南はつい名前を呼んでしまった。
慌てて次の言葉を探す。

「今度飲も!」

ちらっと八重が振り返る。
とりあえず笑顔で手を降る。
何でこんなことを言ってしまったのか。
でも、八重と
ゆっくり話したいという気持ちも
ないわけではなかった。

「ああ。」

八重がそう言って家の中へ消えて行く。
また幼馴染として仲良く話せるか
紗南は少し不安だった。