一番近くて一番遠い

紗南は抱き寄せられたまま
八重を見上げた。

「俺さ、勝手に紗南は自分の一番近くにいて当たり前だなんて思ってて。
お前が他の男のもんになったって
気づいて、初めて自分の気持ちが
わかったんだよ。」

「じゃぁ…なんでその時なにも
言ってくれなかったの?」

紗南が八重を不満そうに見つめる。

「お前が有名になったから
言い寄ったみたいに
思われたくなかった。ごめん。」

「そんな事私が思うわけないのに。」

八重は苦笑いする。

「そうだよな…
でも、その時はそう思ったんだ。
それからずっと
お前を忘れようにも忘れられなくて。
だからお前と
同じフィールドに立ちたくて
スタイリストの道を選んだ。
いつかお前と肩並べても
恥ずかしくない立場になったら
ちゃんと気持ちを
伝えるつもりだったよ。」

「もしその間に
私が誰かのものになってたら
どうするつもりだった?」

「その時は今度こそ諦めよう
って思ってた。
だけど…ハワイでの一件でわかった。
紗南が自分に見せるような顔を
他のやつにしてるだけで
すっげぇ腹が立って。
でも、そんな気持ちと裏腹に
お前を突き放すような
態度しか取れなくて…
自分がこんなに
恋愛下手くそだったなんて思わなくて
すっげぇイライラした。」

紗南はそれを聞いてクスッと笑う。

「何やってたんだろうね私たち。
中学の頃、私がちゃんと
八重に気持ちを伝えていたら
八重はあんな先輩と付き合わなかった
かも知れないし
私はモデルになんて
ならなかったかも知れない。
高校の時に
八重が私に連絡をしてくれてたら
私はあのギャル男と付き合わなかったし
八重はスタイリストにも
ならなかったのに。」