「ちょっとまって!ちょっとまって!」

凛花がテーブルをパシパシ叩く。

「紗南、どんだけやぁちゃんの事
好きなのが周りにバレバレなわけ?
それで八重は気付かないって
どんだけ鈍いの!?」

「えっと…」

紗南は困った顔をした。

「やぁちゃんは?その時なんて?」

「その時は無言。後で弁解に行ったら
俺には関係ないって言われちゃった…」


うつむく紗南。

紗南も八重も鈍すぎる。
お互い好き合ってるのに
ちっとも相手の気持ちをわかってない。
こんな鈍い二人をどうしろと…

凛花はそんな風に頭の中で悩んだ。

「紗南…やぁちゃんは
ちゃんと言わないとわかんないよ。
実はね、この間
八重と現場が一緒になったんだけど
坂本のやつ
やぁちゃんに媚びまくってて…
馴れ馴れしく近寄って話してて
ほんっと気色悪くてさ。
このままだと、やぁちゃん
あの蛇女に捕まっちゃうよ!?」

凛花はものすごい剣幕だった。

「え…それは嫌かも…」

「でしょ!?
だったら早く行動しなさいよ!」

「で…でもどうやって?」

「会うしかないでしょ!?
ちゃんと二人で話せる時間作って!」

凛花がすっかり頼もしく見えた。




凛花のアドバイスを受け
レストランを後にし
タクシーに乗り込む紗南。
家の前でタクシーから降り
八重の部屋を見上げる。
八重の部屋は灯りがついていた。



凛花の後押しを思い出し
気合を入れて八重の番号を呼び出し
ドキドキと高鳴る胸と震える指。




この発信ボタンを押せば
今までの関係とは違う2人になる。
幼馴染というだけの関係が
良くも悪くも変わる。





紗南は気合を入れて
発信ボタンを押した。