「まって!まって!」

家から大きなスーツケースを引っ張って現れる紗南。

「ったくなにやってんだよ。」

八重がそのスーツケースを
ひょいっと持ち上げる。

「あ…ありがと。」

タクシーのトランクへ荷物を詰め込み
紗南と後部席に乗り込む。

「空港までお願いします。」

今日はハワイ撮影出発日だ。






「新婚旅行ですか?」

「はっ!?」

タクシーの運転手に尋ねられ
八重が思わず変な声をあげる。

「違いますよー。撮影なんです。」

タクシーの中なので
紗南がマスクを外す。

「あ!お嬢ちゃんSANAちゃんだろ?
うちの娘がよく、きみの雑誌や
テレビ見てるよ!
サインとか貰えるかな?」

紗南に興奮する運転手のおじさん。
八重はこういう時、紗南が有名人だと
実感する。

「もちろんですよ!」

さすがタクシーの運転手。
いつ有名人を乗せてもいいように
色紙とペンが常に車内にあるようだ。
紗南は運転手が出した色紙に
サインをした。