「最近、めっぽう雨が降らねえなあ」

「これは不作の感じがすっべ」

「ああ…五年前の飢饉のときと同じだ…」




両親の会話が聞こえる。

(全く、声がいちいちでかいのよ…)


長女の奏は少しだけ身をおこし、並んでいる弟妹たちが起きないか、そっとそれぞれの寝顔を見た。
流石は育ち盛りと言うべきか、こんなことで起きるような奴らではないようだ。

奏が自分の布団に戻ると、また声が聞こえた。


「でも今年は奏が問屋の五兵衛さんとこ、嫁いでくれっからなんとかなっべ」


父の声だ。

そう、奏は十八歳になる日にこの家を出て都に嫁に行くのである。


そしてそれは三ヶ月後に差し迫っていた。