──1時間半後
日が暮れてきた。
そろそろ帰ろうかな。
「直人先輩。 今日はありがとうございました。 そろそろ帰ります」
「お、そうか。 ・・・・・・彩海」
「・・・はい?」
「今日も一緒に帰ってくれない? 話したい事があるんだ」
話したい事・・・。 何だろう?


塾の外へ出て、直人先輩と歩き始めた。
しばらく無言だったけど、直人先輩が話を進めた。
「話、なんだけど・・・」
私は、コクッと頷いた。
「俺さ・・・・・・今、好きな子、いるんだ・・・」
「・・・・・・好きな、子・・・?」
ドクッ・・・
直人先輩に・・・・・・・・・好きな子・・・?
直人先輩にも、いたんだ・・・。
特別な人・・・。
私には関係ない事のはずなのに。
胸が・・・苦しい。
「それで、彩海に応援してほしいんだけど・・・。 いいかな?」
応援、したい。 したいけど・・・。
したくない気もする。
でも、直人先輩には、好きな人と幸せになってほしいから・・・。
「応援・・・します」
「おぉ! ありがとな!」
直人先輩の顔がパッと明るくなったと同時に、ホッとしていた。
「私には、何もできる事がないと思いますけど・・・」
「いや、それでいいんだよ」
え? いいの?
もっと、ほら。 相談にのるとか、あるじゃん。
「そう、ですか」
何でだろう。
さっきまで、すごく楽しかったはずなのに、急に憂鬱な気分になるなんて。
私らしくない。
もっと、明るくならなきゃ。
直人先輩の恋の応援のために。
幸せになってもらうために。
・・・・・・喜んでもらうために。
ハッとすると、熱い何かが頬を伝った。
涙・・・? 私、泣いてるの?
「お、おい! 彩海、どうした!?」
泣いてるのに気づいた直人先輩は、すごく心配そうな顔だ。
涙でよく分からなかったけど、いつも笑っている直人先輩の顔とは、少し違うことは分かった。
「わ、からないですっ・・・。 でも、胸が急、に、苦しく、なって・・・・・・」
直人先輩、困ってるよね。
私は急いで涙を拭った。
「ゆっくり歩こう」
直人先輩は優しく言ってくれた。
ちょっとした言葉だけて、安心してきた。
声を聞いただけなのに。
・・・最近の私はおかしい。
心臓がドキドキしたり、時には苦しくなったり・・・・・・。
わたしと直人先輩は、家に着くまでずっと何も話さなかったけど、直人先輩は手を背の小さい私の肩にのせて、ゆっくりと歩いてくれた。