海からの帰り道。

岸田はすでに神社の前でおろした。車内にいるのは俺と北川だけだ。

「夏祭り?」

「ああ。行かねえか?」

毎年八月三十一日には、俺たちの町恒例の祭りがあった。

「うん、行く! じゃあ、岸田くんには電話し」

「待て」

二度も同じ惨事はくりかえさない。

「二人で、行こうぜ?」










一週間程度が、ひどく待ち遠しかった。

「おせーな……」

やっとこの日が来たというのに、北川はまだ来ない。

俺らはれいによってれいのごとし、時計台の下で待ち合わせていた。

なのに今、待ち合わせの五時から時計の長針が数字を四つこえた辺りにあるのはどういうこった。

辺りは浴衣を着たやつらでごったがえしている。

女同士できゃいきゃいやってるのもいるし、まれに男同士でもわいわいやってるが、やはりというかなんというか、カップルが異様に多かった。

ま、駅前も華やかになってきたし時計台は目立つし、待ち合わせるにはちょうどいいんだろう。

事実俺もそう思ってここを指定した。

こうして見ると、俺なんかたくさんのやつらの中の米つぶほどでしかないと改めて思う。

恋人と待ち合わせなんて、かなりのやつらがやってるんだよな。みんな同じことやってる。

カランコロンと下駄の音がして、二人の女が俺の前に立った。

ただでさえ狭かった視界が遮られる。

「あの……一人なんですか?」

「よかったら一緒にお祭り行きましょうよー!」

右側の女は慣れない様子で俺に問いかけ、左側の女は慣れた様子で俺の腕を引っ張った。

「悪いな。人を待ってる」

「あ、そうなんですか……」

「でもでもっ、あなた二十分以上前からここにいるしー。あたしたちと来た方が楽しいですよー!」

何を根拠に言うんだか。

北川に携帯のアドレス聞いておけばよかったと後悔しつつ、俺はしっしっと追い払うように手を振った。