坂上先生が言い残したことも岸田に言われたこともよく分からんが、

「暑いよー……」

夏は暑いもんだ。

「扇風機回ってるだろーが。さっさと宿題しろ」

夏休みである。そしてここは学校。

期末テストもボロボロだった北川は、特別に俺が学校に招待してやった。

「なんで学校で宿題しなきゃなんないのー」

「終業式のあと海の約束をしないままお前が帰っちまったからだ」

「それなら勉強しなくてもいいじゃん、それに岸田くんいないし」

すっかり岸田まで海に行くことになっている。大誤算だ。

まあ仕方ない。こいつがそれを望んだんだしな。

「あいつからはお前が連絡しろ」

このくそ暑い中男といたら俺は発狂する、確実に。男っつーのは無条件に熱いもんだからな。

「あーつーいー」

「黙れ。暑いって言うから暑いんだよ。暑いのは気のせいだ。寒いだろ、な?」

「……先生、暑さで脳やられた?」

「ウルサイ」

宿題が終わらん限り海には行かないぞと言えば、北川は急いでシャーペンを動かし始めた。

……ふう、どーして夏ってのは暑いんだろうな。もうちょっと休めよな、太陽サンも。










「なあ岸田。生徒と教師が一緒に出かけるのは駄目だって校則に書いてたか?」

「覚えてねーよ」

「思い出せよ」

「無理だよ」

海に行くと約束した日。今日、八月二十日。

れいの駅前の時計台の下で、俺と岸田は北川を待っていた。

腕時計を確認。午前九時五十分。

「早く来すぎだろ、お前」

「松ちゃんもだろ」

俺たちがここに来て二十分が経過している。待ち合わせは十時。

つまり俺と岸田は、待ち合わせの三十分前に来たわけだ。

さっきから似たような会話の繰り返しだ。暑い中、男同士でいるとこうなる。と、俺は思う。

「あ」

走ってくる北川の姿を見つけたのは岸田が先で、俺は岸田の視線の先にいる北川に居場所を示すように手を振った。