どこの学校にもある典型的なチャイム。

それが鳴り終わり、ホームルームの始まりを告げた。

窓側一番後ろの席で机に突っ伏す北川を目の端に入れつつ、俺は約四十名の生徒に言葉を発する。

「今日は西島は体の調子を崩して休みだそうだ。お前らも暑さにやられねえように気をつけろよー」

ま、こんな話を生真面目に聞いている奴などいないので、さっさと次へ移る。

一時間目は国語だ。まだ一時間を始めるには早いが、まあいいだろう。

「あー暑いなか悪いが、抜き打ちテストを始める」

ええー! と、驚愕の声がクラス中であがった。

「聞いてない!」

テストという言葉に反応したのか目を覚ましそう叫んだ北川に、抜き打ちなんだから当たり前だと返し、

「日頃勉強してればどうって事ねーだろうが」

B4サイズのテスト用紙を配布した。










「……」

なんでこいつらこんなに悩んでんだよ。

俺はテストが始まって10分だということを教えてくれる腕時計を見て、ため息をはいた。

どいつもこいつも頭抱えやがって。俺の生徒失格だぞコラ。

ふと視線をあげれば、バッチリ北川と目が合った。

……なんだよ、その目。答えなんか教えてやらねーぞ。

じとっと睨み返せば、眉を寄せて唇を尖らせ、北川は再びテスト用紙と向き合う。まあ、頑張れ。

大抵の奴がシャーペンを置いたのはテスト終了三分前で、そこに北川は含まれていなかった。

「終了ー。名前確認して後ろから集めろー」

全身から気合いが抜けたように、ほっとした空気につつまれる教室。

「先生」

「なんだ」

自分の列のテスト用紙を持ってきた北川が、ついでとばかりに俺に声をかけた。

「分かんなかったから、読み仮名のとこは全部『たそがれ』って書きました」

「……アホか、お前。むしろアホだろ」

痛くなってきたこめかみを押さえたら、だってとかどうこう言う北川の声を鮮明に感じた。