「先生、明日は一緒に学校来れるよね?」

北川にそう聞かれたのは、北川が部活に行く前だった。

「あー明日、明日は……」

「え……駄目なの?」

何も言えなかった。

目も合わせられなかった。

「……そっか、うん。そんな日もあるよね! ケーキ屋さん……楽しみにしてるから」

「……おう」

どこか、俺たちの関係はギクシャクし始めていた。










金曜日、北川と話したのは片手でらくに数えきれる程だった。

そんな昨日にため息をはいた俺は、駅前の時計台の下にいた。

腕時計を見る。今日の日付と土曜日であること、そして十一時五分前であることを確認して、辺りを見回した。

梅雨時だが幸い晴れているし、天気予報でも降水確率ゼロパーセント。空気もかわいてるから最高のお出掛け日和だ。

「先生!」

「わっ、アホか! ここでそう呼ぶなって!」

走りよってきた北川に、会ってそうそう怒鳴った。

む、と少し拗ねている。

「名前呼べ、名前。松村でもなんでもいいから。あ、松ちゃんはやめろよ」

「……松村、何だっけ」

「……和」

「あ、そーだ和! 国語教師なのに『かず』なんだよね。最初聞いたときは、数学教師になればいいのにって思った」

「黙れ」

俺だって気にしてんだよ、その事。

「じゃあ……和、……さん」

「『さん』かよ」

「だって、年離れてるのに呼び捨てはないし、近所のお兄さんみたいな関係に見せかければいいかなって」

お前にしちゃあ考えたな。

「ね、せん……じゃないや和さん。それ変装のつもりなの?」

帽子とサングラスの何が悪い。

「……別にいいけど、さ」

北川はワンピースの裾をひるがえして、じゃあ行こうと笑った。