「ねえ先生」

「あ?」

いつもの朝。ただし俺はいつも一時間余裕をもって起きていたのだが寝坊したので、学校に遅れないもののいつもより機嫌が悪い。

低血圧とも言う。

「昨日さ、ゆうきちゃん何もしてこなかったんだ」

「よかったじゃねーか」

「うん。先生、何か言ったの?」

「いや、何も」

廊下ですれ違った時に、人をいじめる趣味があんなら坂上先生いじめてみろ。あの人結構Mだって噂だぞ、って言ったら真っ青になってたが、別にそれをわざわざ北川に言うこともないだろう。

「そっか。ならいいんだ。……ねえ先生」

「なんだよ」

「あたし、今、ちょっとでも先生の『特別』かな」

「は?」

「こうやって一緒に登校したりいじめから助けてくれたり、あたし、みんなより『特別』?」

「……特別の定義が分からん」

「あーっ! ごまかした! それでも国語教師ー?」

うるさい。黙れ。朝の女の声は脳に響く。

坂上先生の黄色い声対策として持ち歩くことに決めた百均の耳栓をする。

きーきーわめく北川から解放されたと思ったら、耳栓に気付いて物理的なダメージを与えてきた。痛えなちきしょー。

「先生!」

「うお!?」

耳栓が外れたかと思ったがどうも違う。北川が耳元で言っただけだった。

……ちっ、やっぱ百均は駄目だな。

「今度ケーキ屋さん行こうよ!」

俺は甘いの嫌いだ。

「甘くないのもあったよ、コーヒー風味っていう」

「行く」

「……先生、コーヒー好きなんだ」

悪いかよ。

……あー、やっぱ百均駄目だ。駄目だわ百均。

耳痛え……。

俺は耳と同時に痛くなってきたこめかみを押さえて、耳栓をとった。

周りの音が急に入ってきて、すげーうるさくなった。