翌日、北川は何もなかったように登校してきた。

いつも見せる笑顔を見て、今まで無理して笑ってたんじゃないかなんて思ったり。

「でさ、駅前にできた新しいケーキ屋さんに行ってみたんだけど」

まあ、今楽しそうだからいいか。

俺は汗をふこうと思ってポケットに手を入れた。……が、ない。

「チョコレートケーキがすっごいおいしくて」

「北川」

「ん?」

「ハンカチ、貸しっぱなしじゃないか?」

「……あ」

持ってくるの忘れちゃった、と笑った顔は、いつもより楽しそうに見えた。

「アホか。ちゃんと洗濯して持ってこいよ」

「分かってるよー」

「お前、今日補習ってことも分かってんのか」

ぎく、と北川の歩みがとまったが、俺は気にせず歩き続けた。










「……」

教室にいるのはすでに俺と北川だけになっている。

補習っつってもプリントするだけだから、他の補習者はもう帰っちまった。

「……北川、そこ」

俺は北川の前の席の椅子を後ろに向けて座っていた。

足を組んで、もう何度目か分からない間違いを指摘する。

「点が足りん」

「あ……」

「漢字なんてもんは一生ついてまわるんだぞ。そんなんでどーする。『団』くらい書けるようになれ」

「はは……」

長ったらしく説教すんのも面倒くさい。

俺はいまわしいチャイムを聞いて、ため息をついた。

……部活の下校時間になっちまったじゃねーか。

「中沢先輩に怒られる!」

「俺が説明してやるから安心しろ。北川はテストで赤点とったんで補習させてたら部活の時間が終わってしまいました、ってな」

ムンクの叫びを連想させるポーズを片手でとった北川は、最悪だよと呟いた。

自業自得と返しておく。

「もう今日は帰れ。帰ってメシまで勉強してろ」

それ用のプリントを渡せば、北川はなくなく受け取った。