君がくれた空


3年前の初夏のある日、僕は公園のベンチで空を眺めていた。
僕は平凡な中学生で、はっきり言って地味だった。
友達は少なく、当然彼女もおらず、何の変化もない退屈な日々に疲れきっていた。
好きな異性すら、いない。
今になってみれば、なんて贅沢な悩みだと思う。
でも、当時は本気で悩んでいた。
僕がもし今消えてなくなったとしても、何も変わらないのではないか。誰も悲しまず、誰も困らず、ただ雨粒が地面に吸い込まれて消えてゆくように、ほんの些細な出来事として、終わってしまうのではないだろうか。

僕がこの世界に存在する意味は、あるのだろうか。

そんなことを考えているうちに、数少ない友人と接するときも疑心暗鬼に駆られ、うまく笑うこともできず、気づけば一人になっていた。
学校に行く気力も失せ、ただぼぅっとして過ごす日々。
無意味ではあるけれど、無理に笑うことに比べれば、楽で穏やかな毎日だった。

君に出会ったのは、そんなときだった。

「ねぇ、あなた、そこで何してるの?」

驚いて顔を上げると、そこには、僕より少し年下のように見える女の子がいた。
不思議そうに首をかしげている。

「別に。」

急に声をかけられて混乱した僕は、思わず素っ気なく言葉を返した。

それでも女の子は嫌な顔もせず、無邪気に笑うと僕の隣に座った。
シンプルな白いワンピースを着て、さらさらとした黒髪は短く、うなじで涼しげに揺れている。

「あなた、いつも空を見てるよね。私も雲を見るのが好きだから、話してみたかったの。」

「雲?」

僕が聞き返すと、女の子は幸せそうに話し始めた。

「晴れた日の雲って、真っ白で、ふわふわしてて、すごく綺麗でしょう。それが、こんなに澄んだ青色の上を流れていくんだよ。素敵だと思わない?」

空を見ていて、変だと言われたことはあるけれど、こんな風に、空が綺麗だと言われたことはなかった。
僕も微笑んで、言葉を返す。

「そうだね。空はいくら見ていても飽きないよ。」

すると彼女は本当に嬉しそうに笑う。

「名前、何て言うの?」

女の子が尋ねる。

「中川 楓。君は?」

「藤咲 ひなた。よろしく、楓!」

いきなり名前で呼ぶのかと驚いたけれど、拒む理由もない。
だから僕も、ためらいなくその名を呼んだ。


「よろしく、ひなた!」

それから僕らは、いろいろなことを話した。
趣味、好きな本、今までで一番楽しかったこと。
なぜ学校にも行かず、こんなところにいるのか。
それは、お互い一言も触れなかった。
聞けば、彼女は消えてしまうような気がしたから。

久しぶりに、自然に笑って人と話せたことに気づいたのは、家に帰ってからだった。