新宿に雨が降ると、摩天楼の先端は霧に隠れる。
それは、見方によってはとても幻想的である。

しかし、今の向井日向には、そんな風情に浸っていられる余裕はなかった。
おろしたてのスーツにおろしたてのヒール。
これらにとって、今降っている霧雨は大敵だ。
ヒールは水を吸って、重みを増している。

「もう!」

日向は、毒づいた。
が、苛立ってばかりもいられない。約束の時間に遅れそうなのだ。
ヒールであることも気にせず、日向は走った。

それもこれも、全て山手線が悪い。今日も止まったのだ。

水溜まりに足をつっこんだ。激しく、水がはねてスカートのすそをぬらした。

本当にツイてないわ。

それでもはしりつづけなければ。間に合わない。
よく似たようなビル群をぬけて、目的地をひたすら目指した。
目的地についたのは、約束の10分前。