やっと、場の空気が緩んだ。
レイは自分の席にもどり、手酌でワインを自分のグラスに注ぐ。
「すみません、そいつのカツラ、被せてやって下さい。そろそろデザートきますから。」
一杯3万円相当のワインを一気のみしながら、ヘアメイクさんにそう英語で伝えた、と木村さんが俺に耳打ちをした。
耳打ちをする木村さんもビビっている。
そして、レイがまた英語で何かを言った。
最初はウィリスとそのスタッフ2人に厳しい顔で。
そして、3人がビビりながら頷くと、きちんとした態度で山吹さんに何かを話した。
「ありがとうございます。」
山吹さんはレイに向かって日本語で言い、頭を下げた。
そして、俺に。
「素敵な人と出会えてよかったね。」
山吹さんは、昔と変わらないばか正直な笑顔でそう言った。
空気がなごんだ。
「じ、じゃあ、俺はそろそろ…。」
逃げるようにウィリスが腰を上げた。
「おい、クソ野郎。」
レイ、言葉悪すぎ。
だけど、そんなレイにビクリと反応するウィリス。
いつから、名前変えたんだよ?
ビビり固まるウィリスに、レイが満面の笑みを向けた。
「今の、仕返し三つのうち、ひとつめだからな。」
「えっっ!?」
心底驚くウィリスに、レイはまた美しい笑顔を見せた。
「さっきいったよな?『目には目を歯には歯を―』って。ふ、借りはきっちりかえすから。」
「「「「え…?」」」」
俺、ウィリス、木村さん、山吹さんの声がハモッてしまった。
そこへ、空気を読まないべべが。
「レーイ、可哀想だから、仕返しはあと1つにしたら?ここ、ご馳走になるんだしー。」
べべが自分の前の大量の皿を重ねながら、ゲラゲラ笑った。
レイが素直に頷いた。
明らかに、ウィリスが助かった、という顔をしたが。
ノックの後デザートの用意にべべが空のボトルを差しだし、追加のワインを注文し出したことで。
悲鳴にならない悲鳴を上げる、ウィリス。
「べべ、デザートにワインを飲むのは不粋よ。」
さすがにレイが止めた。
ウィリスが心底ホッとした表情になる。
だけど。
「デザートはフルーツとシャーベットだから、シャンパンにしよう。」
レイがニヤリと笑った。
俺は確信した。
夫婦喧嘩で、俺は絶対にレイに勝てる自信は。
ない!!

