俺はレイを見た。
レイはタバコをくわえだした。
「ちょ、レイ…ここ禁煙…。」
「あ?」
止めようとしたが、ものスッゴい不機嫌な顔でにらまれた。
ダメだ、恐すぎて止められない。
「あれ、まずかった?奥さんの初体験の相手とも対面したから、ミスターセノの相手と対面してもOKかと思ったんだけど?」
クスクス笑う、ウィリス。
最低だな。
「ウィリス。止めろ。」
「大丈夫だよ、ここは個室だし、スタッフだけしかいないから。ここだけの話だよ。」
だからって、人の心をこんな風に晒し者にしていいはずはない。
山吹さんは、レイがいるからか、申し訳なさそうにうつ向いてしまった。
スタイリストさんとも気まずい。
そんな空気のなか、レイが口をひらいた。
「ミセスマクレガー、うつ向かないでください。」
それは静かだけれども、凛とした意思のある声だった。
「え、あの…。」
山吹さんが驚いて顔を上げた。
「実は、山吹さんがこの部屋に入って来られて、何となく将と昔何があったか・・・察しました。でも、将は貴女に対して気まずい顔はしませんでしたよね?貴女とお目にかかって、懐かしい気持ちと、お幸せそうな様子に安心したようでした。将はこう見えても、感情的な人間です。会いたくなかった人にはそんな顔はしません。貴女も将と再会して今日幸せそうで安心なさったんじゃないですか?気まずい顔をされたのは私に対してだったんじゃないですか?」
「その、とおりです…すみません…。」
全てお見通しのレイに観念した様に、山吹さんが頭を下げた。
携帯用灰皿に吸い終えたタバコを押し付け、もう1本新たにくわえる。
完全にニコチンギレだったらしい。
「謝ることなんてありません、将との間にあったこと、後悔なんてしないでください。今の将があるのは、貴女のお陰でもあるんですから。私は今の将が好きです。貴女との経験も含めて今の将です。」
何か、凄く…感動した。
アランに嫉妬しまくった俺が恥ずかしい。
「いやー、さすがレイちゃん。将とは違うなー、対応が。」
木村さんがゲラゲラ笑った。
くそ、わかってるってば。
ギロリと木村さんを睨んだが、同時にレイも木村さんを睨んでいた。
「わ…レイちゃん、睨まないで。将の睨みなら大したことないけど、レイちゃんの睨みは迫力ありすぎだから。」
随分失礼な事をいうが、木村さんマジでビビってるし。
でも、確かに笑い事じゃないよな。
「山吹さん、ごめん。山吹さんを巻きこんじゃって。この事は気にしないで、ウィリスが俺に嫌がらせをしたくて昔の事を持ち出したんだ。」
山吹さんにとったらいい迷惑だし、知らない人間の前であんな事言われて恥ずかしいに決まっている。
巻き込んで申し訳ない事をした。
山吹さんが首をふる。
でもその顔は、泣きそうだ。

