「ご主人は、どうされたんですか?」
レイが気になった様子で聞いてきた。
「オリバー監督と、フランスの外務担当官と食事中で…「ミセスマクレガー!」
山吹さんの言葉をウィリスが慌てて遮った。
そういうことか…アメリカは大国だし、オリバー監督は世界的に有名だ。
日本の外交官はもちろん呼ばれていない。
ここで、待遇の差が大きくでている。
ウィリスが食事を誘ったからって、オリバー監督がきちんと動いている。
うちは俺だけしか宣伝要員がいないのに、こんなところで呑気に食事をしている愚かさに改めて気がついた。
ウィリス、これも計算のうちか…。
だけど、深く考えもせず、ウィリスの下らない嫌がらせに踊らされた自分に腹がたつ。
奥歯をぐっとかみしめていると。
「あー、このフォアグラおいしーわー。ねえ、ウィリス、将の宣伝の時間を貴方との食事にあてたんだから、ここの支払いは勿論、あなたよねー?」
突然、空気を読まない…いや、有無を言わせないべべの声がした。
ま、まさかな…。
「も、もちろんですよ。それに、ベリー・Bに食事をご馳走できるなんて、光栄です。」
やっぱり、こいつアホだ。
ベベにこんなこと言ったら最後…。
地獄をみるぞ?
「うわー、ウィリスって、器の小さい男かと思っていたけど、案外太っ腹ねー。いい男じゃない?」
「…あ、ありがとうございます。」
アホか、小さい男って言われているのに。
それよりも…。
「いえいえ、どういたしまして。それじゃ、遠慮なく。フォアグラをあと3つ追加して…あっ、パンプキンパイやっぱりあと2個追加で、ワインのメニューを持ってきてくれる?」
出た。
多分べべの食いぶちで、食事代少なくても、予定の倍にはなるだろう。
いやいや、べべは高級ワイン好きだし、ワインの値段だけでいくらになるのか…。
あ、ちょっとウィリスの目が泳ぎだした。
ぶ。
べべ、結局趣味と実益を兼ねて俺の仕返ししてくれてるんだよな。
何となくそれにウィリスも気がついたようで。
一緒悔しそうな表情になったが、直ぐに口元が意地悪そうに歪んだ。
そして、とんでもないことをいった。
「ところで、ミスターセノ、初体験の思い出の女性との久しぶりの再会はどんな気持ちかな?」
山吹さんの表情がクシャリと歪んだのが目の端に入った。
一瞬、部屋の中が、シン…とした。
今のは日本語だったから、ウィリスのヘアメイクさんとスタイリストさんには通じていなかったようで、部屋の空気が凍ったことに、キョトンとしていた。
だけど、英語で山吹さんがスタイリストさんに詰め寄ったことでバレてしまったらしい。
2人ともギョッとしている。
相変わらずばか正直だな…。
だから、ウィリスなんかに利用されるんだ。

