舞台上では案の定、ウィリスが睨んでいた。
まあ、面白くないだろうな…。
しかも、レイにあんなにぶちぎれされて、何一つ言い返せなかったもんな。
ウィリスが電話で連絡をして、レストランの個室に入ってきた女性は。
俺の元マネージャーで・・・・・俺の初体験の相手だった。
「え?…瀬野君?…うそ…。」
山吹さん…彼女の旧姓なんだけど、山吹さんは俺がいることを知らなかったらしく、焦った顔になった。
彼女はカリフォルニアの大学を卒業して日本に戻り、前に俺が所属していたモデルクラブに就職をした。
そのモデルクラブはアメリカで撮影や、ショーの仕事も多く、英語が堪能なスタッフを多くとっていた。
山吹さんもその1人だ。
当時彼女には大学時代からのアメリカ人の恋人がいて、当時遠距離恋愛をしていた。
結果的にその人と結婚したんだけど、その相手はかなりのエリートって聞いたな。
慌てる山吹さんに俺は笑顔を向けた。
「山吹さん…あ、いまは名前ちがうよね。つい癖で…。ご無沙汰しています。お元気そうでよかったです。あ、こちらは妻のレイです。レイ、彼女は俺が前のモデル事務所にいた時のマネージャーさん。」
まあ、彼女に対して特別な感情はなかったし、俺も大人だ。
いまさらあわてふためいても、彼女に迷惑がかかるだけだし。
昔の事だし。
レイに知れたとしても、今の俺達の信頼関係の上では、問題にならないと思うし。
ただ、彼女の方は知られたくないよな。
当時俺、14歳で中学生だったし。
彼女は大人で、まあ…マズいよな。
「初めまして。レイです。将がお世話になりました。」
レイがにこやかに山吹さんに挨拶をした。
山吹さんもしどろもどろながら挨拶をする。
結局、彼女も一緒に食事をとる事になった。
俺が普通だから彼女も段々落ち着いてきて、やっと和やかな雰囲気になった。
「でも、アメリカ人と結婚したのに、山吹さん何でフランスにいるんですか?」
「ああ、私の主人外交官なの。フランス在中でね、もう3年こっちにいるの。で、今日はフランスで権威のある映画祭で、オリバー監督の映画がノミネートされてるでしょう?だから主人と…今日は授賞式に招待されて…。」
ご主人の話になると、俺を気遣ってかいいにくそうな顔をする。
そんな気を遣わなくてもいいのに。