「ウィリスには、本当に悪い事したと思ってる。俺が当時忙しかったばかりに。」
将が、少し同情的な言い方で話し出した。
ウィリス君は、中学の終わりにLAのディズニーランドで日本のモデルクラブにスカウトされた。
ウィリス君は、日系アメリカ人だけど、祖父母は日本人だ。
一度は住んでみたい国だった。
誘われるまま高校から日本で生活することになった。
だけど、そこにはウィリス君とタイプがかぶる、将がいて。
既に将は、大人気だった。
だからどこへ行っても、ウィリス君は、将のそっくりさん扱いで。
終いには、ドラマに出始めた将の代理をすることが多くなった。
例えば、多忙な将の代わりに将が来るまで代理をつとめたり。
結局、ウィリス君は高校卒業とともにアメリカに帰って行った。
「事務所の紹介だったから、高校も一緒で、芸能コースだったから3年間同じクラスで…あいつにしてみれば、俺が憎かったと思う。」
将が、深いため息をついた。
「だけど、それって仕方がないことでしょう?」
本当は、落ち込んでいる将を慰めるべきなんだろうけど。
私は我慢ができなくて、口が動き出す。
「え?」
「ウィリス君に将を越える魅力がなかったってこと。確かに、不運ではあるけど。だけど、実力の世界だから仕方がないことでしょ?そんな事でいちいち同情してたら、朝から晩まで他人に同情する時間でおわるわよ。それに、将がもしウィリス君だったら、同情されたい?」
将が、固まりながらも首を横に振った。
「そーよねー、今ショウは同情してる場合じゃないわよねー。この映画祭、日本の映画なんて知名度低いから。過去振り返って優越感にひたるより、今の自分の世界での立場意識したら?」
ベベの言葉に益々固まる将。
うわー、べべ、きっついなー。
だけど、本当の事だ。
べべが私にダーリン苛めちゃったけど?とおどけて言う。
「ベベ、大丈夫。これくらい言われたくらいでヤケになる男、私には必要ない。」
きっぱりそう言うと、べべと木村さんが笑いだした。
将は、がっくり項垂れて。
「レイに捨てられないように、頑張る…。」
と、呟いた。
その様子があまりにも可愛くて、ツボにはまり。
私は、将の頭を撫でてやった。

