「あるよ…残念ながら。」
将が、眉を下げながら答えた。
私も1人、頭に浮かぶ。
「欧米人からみて、東洋人の顔って、背格好や服装が似ていたら、おんなじに見えるって、言うもんなー。」
と、木村さん。
「…それに、あいつは、昔本当に俺の影武者だったし…真似するのはお手のもんだと思う。」
はあ。
将と背格好が似ていて、昔から将の事を知っている人なんて、私の知る限りでここにいるのは、1人しかいない。
ウィリス君…。
だけど。
「ふーん、将が、わかってるならいいわ。多分、将個人的に嫌がらせをしたかっただけで、他には被害はないし。」
確かに、そうだ。
代金だって向こう持ちだし。
シナモンの匂いで不快になったのは、将だけだし。
将が、べべの言葉にため息をついた。
「あいつ、よく俺がシナモンダメなの覚えていたな…。」
クスリ、と笑う。
「ねえ、ウィリス君が影武者って、どういうこと?」
私は、さっき将が発した言葉の中で気になった事を聞いてみた。
するとまた、将の眉が下がった。
「うん…元々、ウィリスとは、事務所が一緒でさ…。」
「ああ、将はうちの船津プロに入るまえ、大手のモデル事務所にいたもんな。」
木村さんがそう言って、モデル事務所の名前を上げた。
確かに、大手だ。
しかも。
「私、そこの高坂さんってチャラい人にしつこくスカウトされたことある…。」
ついポロリと、関係ないことをしゃべってしまった。
途端に、将と木村さんばかりか、ベベまで反応した。
「えっ、何で?あの高坂さんが…レイ、何で高坂さんの誘い断って、『シェリル』へ行ったんだ?会社の規模も待遇も全然ちがうだろ?」
そんな驚くことか?
決まってるじゃん。
「そんなの、条件がよかったから、『シェリル』にいったんだよ。」
そう言うと、3人とも微妙な顔をした。
「いや、条件は、高坂さんのところの方がいいだろ、レイちゃん。」
木村さんの質問に、将が苦笑いをした。
「いや、木村さん…。レイの好条件は、仕事が土日限定で、勉強できる待ち時間があって、なるべく拘束時間が短いっていう事だから。」
さすが、将。
よくわかってるじゃない。
だけど。
私が大きく頷くと、何故か皆吹き出した。
「私の事より、ウィリス君の事を説明して!」
ムカついたので、軌道修正だ。

