誰だろう?
事務所との連絡で木村さんの部屋へ行っている将はそろそろ帰ってくるだろうけれど、鍵を持っているからインターフォンなんて鳴らさないだろうし。
ドアを開けると、ルームサービスだった。
だけど。
「え?」
ルームサービスなんて頼んでないし。
「お待たせ致しました、ルームサービスでございます。」
しかも。
カプチーノが15杯。
何これ。
驚いて訳を聞いてみると、どうやら将が直接お店に頼みにいったらしい。
ここのホテルの1階のカフェは有名だ。
本来のルームサービスとは別に頼めば、部屋まで商品を届けてくれる。
将は代金も支払い済みだという。
部屋には、コーヒーのいいかおりと、スティックシナモンのかおりがした。
「あらー、いい香りね。」
べべがニコリとした。
でも、誰かお客様が部屋にくるんだろうか。
そう思っていたけれど。
「オェッ!!・・・なにこれ?」
部屋に戻ってきた、将の様子が変だ。
「うー、気持ち悪い…。俺、シナモン無茶苦茶嫌いなんだよ、匂いだけでも、ダメ…。」
将がどかしてくれと、ゼスチャーで示す。
「え…何で?これ、将が注文したんでしょ?」
「は?」
経緯を話すと、将は鼻にシワをよせ、首を横に振った。
「俺じゃない。」
「そうよね、ショウは、大体フランス語ばかりか英語も話せないじゃない?どうやって、注文するの?」
べべが最もな事を言った。
確かに。
じゃあ、部屋間違い?
そう思うと、私は慌ててフロントへ電話をいれた。
だけど。
フロントから連絡が入り、慌てて飛んできたカフェの責任者と、担当のギャルソンが、将を見て注文をしにきたのは、目の前の将に間違いがないと言った。
これじゃ、埒があかない。
だけど、カプチーノは勿体無い。
一応、店側には伝えたし、もし後で間違いとわかったのなら、代金を払えばいいことだとべべが提案し、ギャルソンにケーキやクッキーを追加注文した。
そして、べべのところのスタッフと木村さんを呼び、全員で7人となった。
「はい、1人カプチーノ2杯、ノルマよ。」
ポットから、カップにカプチーノを注ぎ、べべが配り出した。
スタッフも手伝う。
将の事を考え、シナモンスティックはお店の人に持ち帰ってもらった。
「あれ、でも、1杯あまるな。」
7人×2杯だから14杯。
私がひとり呟くと、べべが私が3杯飲むのっ、と宣言していた。
笑顔で・・・。
べべって、プラス思考だ。
こういうことって、不気味なことととらえられがちだけど、べべは敢えてこの状況を楽しんでいる。
「お茶会ができてよかったわー。このケーキ美味しいし!」
やっぱり、べべは凄い。
部屋にいる全員から、クスリ、と笑いが溢れた。
だけど、べべはシビアでもあって。
お茶会終了時に、将に向き直った。
「ショウ、心当たりは?」

