将が、すっかり立ち直ったところで。
会場を後にしようとした時、髭面の小汚いオッサンに将が呼び止められた。
「久しぶりだね。」
ニコニコ笑いながら握手を求めてくるオッサン。
将も笑顔で、握手に応える。
「誰?」
私が将に訪ねると、将がオリバー監督だよ、と答え悪いけど通訳してと私に頼んできた。
「ショウ、わざわざ見てくれたんだ。」
小汚いけど、にこやかなオッサンで、フランクに話しかけてくる。
将が、凄くいい映画だったと誉め、細部で自分が感じた感想も丁寧に付け加えた。
オッサンは目を細め、将を見つめた。
「出来たら、そのうち君と仕事が出来るといいんだけどな。君の演技力は高く評価していたんだ。」
そんなことを言った。
そうだろうな、オーディションを受けた俳優なんて沢山いるだろうに、将の名前を覚えていたくらいだから。
「いや、今考えると、海外の仕事を受けるには、考えが甘かったです。ウィリスの演技は素晴らしかったと、感じましたし。…今度は気合いを入れ直して、英語をマスターして、オーディションに挑みたいと思います。」
素直に将がそう言った。
オッサンは笑って、頼むよ、と頷いた。
すると、プレス関係者が取り囲み、将とオッサンに質問をしだした。
何で知り合いなのか、という質問を受けて、私が将に通訳すると。
「ミスターウィリスがやった役のオーディションを俺も受けたんです。結果は玉砕でしたけれど。今作品を見てきましたが、素晴らしい演技で納得しました。俺も頑張ろう、って改めて思いました。」
そんなことを言い出したので、一瞬戸惑うと、将がいいからそのまま訳してと言った。
将に従うと。
プレス関係者からどよめきが起こった。
だけど。
「いや、彼の演技は素晴らしかったんだ。だけど、彼を選ばなかったのは、違う理由からなんだ。」
オッサンがどよめきを遮るように、口を開いた。
「どういう理由ですか?」
プレス関係者から、当然理由を聞かれる。
オッサンは、ちょっと困ったように、小さい声で答えた。
「うん…今回の役に、タイプ的にショウは向かないと思ったんだよね。結果的に、ジョンで適任だったし。」
プレス関係者がどっと笑った。
私も吹き出した。
将はキョトンとしている。
可哀想なウィリス君。
でも、まあ理由がわかってよかった。
ぷ。

