オリバー監督の映画は、凄くよかった。
ウィリスの演技も秀逸で、文句のつけようがなかった。
ただ。
役柄が、かなり個性的で。
てゆうか、凄く嫌な奴。
準主役なんだけど、うざい感じの卑怯な奴。
それがキーマンなわけだけど。
「ねぇ、将…。この役、本当にやりたかったの?事務所的にも、オッケーだったの?将のイメージこれやった後変わると思うけど?」
私がそう聞くと、将も頷いた。
「レイのいう通り、やっぱり認識が甘かったよ。ただハリウッド映画ってことだけで舞い上がってた。それに、やっぱり、ウィリス、上手い。俺がここまでできたか、自信なくなった。オーディションに合格しただけはある。」
将が、素直に認めた。
その目は、さっきまでの落ち込んだものではなくて、落ち着いたいつもの将の目だった。
わたしは、将の頬にキスをした。
「えっ、公の場でキス禁止じゃなかった?」
将が、驚いているけど、嬉しそうに聞いてきた。
「ちゃんと、素直に敗けを認めた将が、格好いいから。ご褒美。」
そう言うと、将は一瞬固まり、それから顔をグニャリと歪めた。
「参った。」
そう言って、私を将が抱き締めた。
「将?」
どうしたんだろう。
私はいつもと違う様子の将が心配で、慌てて顔を覗き込んだ。
「すっかり、忘れてた。俺が一番好きだった父さんの言葉…『素直に敗けを認められる奴が一番格好いい』って。タケさん…死んだ夕真ちゃんの最初の旦那さんも、俺にそう言ってくれたのに。俺、いつのまにか忘れてた。忘れて、格好悪いやつになってた…。」
へえ、いいこというじゃん、さすが将のお父さんだ。
それに、夕真さんの前の旦那さんも。
将は、いい人に恵まれてるな。
「それ、思い出したし。それに、ちゃんと自分から敗けを認められたんだから、いいんじゃない?将、誰がどう思おうと、今の将を私は格好いいって、思うよ?それじゃだめなの?」
私は、将を正面から見つめそう言った。
すると将は。
私をまた抱き締めた。
「ダメじゃない!レイにそう思って貰えれば、最高!」
そうだよ、誰だって悩んだり、落ち込んだり、卑屈になったりする事ってあるし。
それを正面から受け止めて、相手を認めるって事は簡単じゃない。
でもそれが出来るなら、何よりも格好いい事だと、私は思うよ。
だから将、胸をはれ!

