案の定、空港はごった返していた。
チェックインをすませ、ラウンジで寛ぐ。
レイは早速、ラウンジ内の喫煙コーナーへ行き、立て続けにタバコ3本を吸っている。
他の客も遠巻きにレイを見ている。
本当に格好イイ。
「あの…よかったら握手してもらえませんか?」
そう言ってきたのは、中学生くらいの坊主。
レイにあこがれてんだろうな。
だけど、
ダメだ。
レイは俺のものだから。
やんわりと断っておいた。
搭乗するためにムービングロードを歩くと、マスコミの人達が群がってきた。
レイの手を引き、会釈をしながら無言を貫く。
あまりにも取材陣が多いので。
仕方なく、ムービングロードを降り、足早に歩を進める。
映画祭の事にからめ、レイの事を知りたいのだろう。
映画の事とは全く関係のない質問がや次は次に飛び交う。
なかには、とんでもなく失礼な質問もある。
30代と思われる、少し小奇麗にしている生意気そうなレポーターが、レイにマイクを向けた。
「瀬野さんと結婚されたのは、売名行為では?と一部では言われていますが、そこら辺はいかがでしょうか?」
は?
俺は、耳を疑った。
レイが?
売名行為だと?
怒りで血圧が下がったのだろうか、スッと体が冷たくなった。
だけど、その時。
レイが、立ち止まった。
少し考えてから、後ろを振り返る。
「木村さん、搭乗時刻までまだ余裕ありますか?」
俺は日頃、仕事においては余裕を持って動きたい方なので、木村さんはスケジュールをゆったりめにしてくれている。
「ええ、まあ…。」
マスコミがいるので、曖昧な返事をする木村さん。
多分まだ、30分はあるはずだ。
搭乗口へはここから5分もかからないだろうし。
その言葉を聞きレイが俺と木村さんを交互に見た。
「じゃあ、将。5~10分くらいインタビューに応じたら?このままだと、周りに迷惑がかかるし…。私にも質問がもしあるのなら、同席するし…。」
普段のレイの口からは想像もできない言葉が飛び出した。
「えっ?レイいいの?」
そりゃあ、俺としてはレイが俺の奥さんだって、世間に自慢できるから嬉しいけど。
レイはこういうことあまり好きじゃないだろ?
何でだ?
マスコミに背を向け小さい声で話していたのだが、俺たちの話を聞いていたのだろう。
マスコミが騒ぎだした。
レイのコメントなんてとれないだろうと踏んでいたのに、当のレイが取材に応じると言うのだから。
「じゃあ、手早く済ませましょうか。」
木村さんが、取材陣に手短に説明をし出した。
「木村さん、できたらこことは反対のあちら側のコーナーのあたりがいいんですけど。」
レイが場所の指定をした。
何故反対側なのだろう。
ここから5メートル程の通路の端が少しスペースがあって、囲み取材なら近いしそこでもいいのに…。
取材陣も、怪訝そうな顔をしている。

