美景にはずっと、こんな感じで…いつもからかわれていた。

随分年下なのに、いつも余裕がないのは俺のほうだった。


好きで、好きで。

ふと、気がついた。


「美景、そのドレス…。」

「ああ、これ?貴方に初めてプレゼントして貰った、ドレスよ。覚えてた?」


ブルーのシンプルなドレス。

だけど、美景の美しさを引き立てている。


「もちろん。」


よみがえる、幸せな日々。

初めて美景に出会った時の、心のときめき。


はあぁぁ。


「何か、1人で思い出に浸ってるみたいだけど。余裕あるじゃない?花嫁の父のお役目まであとちょっとよ?バージンロード歩くんでしょ?転ばないといいわね。」


ニヤリ、と笑う美景。


「おいっ、縁起でもないこといわないでくれー!」

「落ち着きなさいよ、まだ20分あるわ。ちゃんと、泣き止みなさいよ。そんなんじゃ、レイに恥をかかせることになるわよ。」


ピシャリと言われた。

相変わらず手厳しい。

だけど、俺にこんなにはっきりものを言ってくれるのは、あとにも先にも、美景だけだった。


「なによ、レイもはっきりいうじゃない、クソジジイとか。」

「!!!なんでっ、美景、俺の思ってることわかるんだ!?」

「幽霊の特権ってやつ?」

「ええっ!?」

「声でかっ。うるさい。」

「ご、ごめん。」


美景に嫌な顔をされて、凹む。

そんな俺に。


「謙ちゃんは、変わらないわね。昔のまま…。ねえ、今日わざわざ出てきたのはさ、謙ちゃんに会いたかったから…。」


美景が頬を染めて俺を見た。


「ほ、ほんとかっ!?」


俺は、胸が熱くなり・・・。


「嘘に決まってるでしょ。」

「!」


がっくりと、肩が落ちる。

美景は、そんな俺をゲラゲラ笑う。

相変わらずだ。


「ふふ。本当に相変わらずねー。今日出てきたのは、決まってるでしょ?レイの花嫁姿を見に来たの。」

「あ、そうか。」


そりゃ、そうだよな。


「私、レイの花嫁姿を見られなかったことが無念なの。」


そうだな、たった一人の子供だからな。


「きれいだぞ、きっと。」

「そうね・・・。」


ポツリと、美景が呟いた。



その時、ノックの音がした。



「父さん、大丈夫か?もうすぐ、式だぞ。」