そんな事を考えていたら、レイさんがクスリ、と笑った。

その笑顔がまた魅力的で。


「何?」


…俺もヤバいかも。

気を抜くと、孝太郎の二の舞になりそうだ。



「いや、今、ここに将が入ってきたら、煩いだろうな、って思って。ほら、俳優の時とは全くちがう、器の小ささだから。」


そう言ったレイさんは、本当に優しく笑う。

普段、クールな感じなのに、笑うと凄く優しい顔だ。

それに、本当に将君が好きなんだってわかる。

それも、世間で知られている『抱かれたい男』キャラの将君じゃなくて、素の将君が。


はあ。

結局、誰も入り込む余地はないってことか。



「…最近、将君が菊さん化してきた、ってサロンメンバーが言ってたし、この間レイさんと握手さえ阻止されたから、確かにあるかもなー。」


そう答えると、クスクス笑う。


俺は、そんなレイさんに頭を下げた。


「え?」

「先日は、ありがとうございました。打ち上げ会場になった、イタリアンレストランは、うちの経営している店なんです。だから―――「お礼なんていらないわよ、うちの学生が言ったとおりよ。」


俺の言葉に、レイさんが言葉をかぶせた。


「だけど…。」

「あのフランスの女性の命が助かってよかった。ただそれだけ。」


短くなったタバコを揉み消し、新たにタバコをくわえ火をつける。


つい、見とれてしまう。

こりゃ、将君が心配になるのもわかるな。

だけど、レイさんは将君しか見ていないようだし。


「で、そんな事を言いにきたの?」


くわえタバコで俺を振り返った。


ウェディングドレスで、くわえタバコって…。

普通の人がやったら、絶対にNGだろうけど。


レイさんの場合…。

すんげぇ、格好イイ。


やっぱ、ある意味孝太郎の運命の人な訳だ。


「いや、孝太郎の事でも、礼を言っておこうと思って。」

「芝崎のこと?」


ぶっ。


孝太郎、芝崎って呼ばれてるんだ。

本当にレイさん、スゲーよ。

孝太郎のことそんなに上から呼ぶやつって、菊さんかカッシーくらいしかいねーのに。


「ああ、孝太郎、明後日からの青山流の新春会が終わったら、内弟子辞めて家に戻るんだ。」


孝太郎は代々政治家の家の長男なのに、ずっと家は継がずに青山流で働くと言っていた。


「そう。」


レイさんは、俺の言葉に全く驚かなかった。


え、何でだ?