「は?・・・また、かよ!?白井、お前もうちょっと我慢できないのかっ!?・・・・はぁ・・・・・・わかった・・・・・じゃぁ、今からそっち向かうから・・・・・ああ、40分以内には行けると思うから・・・・。」
木村さんの口調で、また現場で志摩さんが揉めたんだと分かった。
コーヒーを名残惜しそうに一気飲みする木村さんに、船津さんが自分も行くと言いだした。
志摩さんというのは俺より三つ下の、うちの事務所に所属する人気女優だ。
元は、人気アイドルグループの出身で別の事務所に所属していて、10年くらい前にアイドルから女優に転身する事を決めて、うちの事務所に移籍してきた。
気の強さと根性は大したもので、その上ルックスの良さと演技力で今イイ女系女優といったらまず志摩さんの名前が上がるほどの売れっ子になっている。
だけど、その分・・・我儘もかなりのもので・・・結構周りとの衝突が絶えない。
彼女につくスタッフも定着しなくて、しかも現場でもめたりすることもあり、下の方のスタッフではおさまらないことが多くて、こうやって木村さんに救いをもとめるスタッフからの電話がはいる事もしばしばだ。
「木村さん、俺、ここでもう少し見て行きたいから。タクシーで帰るし。志摩さんのところ行ってあげてください。」
電話を切った木村さんに俺はそう伝えた。

