レイは、本当にウィリスにきっちりと仕返しをした。
じられない方法で。
一体、短時間で…しかも、あんな衝撃のさなか、よくも考え付いたと感心する。
授賞式に通訳のレイを伴って、壇上にあがると割れんばかりの拍手が起こった。
あまりの大きな拍手に驚きながらも、片言でお礼の言葉を口にする。
司会者と一緒に審査委員長が出てきて、何故追加で賞が作られたのかという説明があった。
「国を越えて、人間の感情に共感できる、繊細な演技と存在感に圧倒された。ショウ・セノの存在が頭から離れず、審査員満場一致でこの賞を贈ることに決めた。」
レイの簡潔な訳でも、心が震えた。
芝居が好きで、ここまでやってきて本当によかった。
今の気持ちを、と聞かれ。
認めて下さった方々は勿論、チャンスを与えて下さった方々、いつも協力してくれるスタッフ、応援して下るファンの皆さんに感謝したいと伝えた。
レイが訳すと、司会者か間髪入れずに何かを言ったが、それは訳さずレイが何かを即答した。
途端に起きる笑いと、冷やかしの声。
「レイ、何?」
訳がわからず聞くと。
「…さっきの感謝の言葉を訳したら、奥さん…って私のことだけど、には、感謝の言葉がないなんて司会者が言うから…。」
レイが少し顔を赤らめた。
「何て言ったの?」
「・・・私達は、一心同体だから、って・・・・・・・・言った。」
「・・・・・・。」
もう・・・。
もう。
もう!
堪んないよ、さっきの『クソ野郎!』って叫んでいた危険人物と同一人物とはとても思えない!
本当に堪らなくなって、俺はレイを抱き寄せ、チュッ、とキスをした。
途端に沸き起こる歓声。
あ。
しまった。
壇上だった…。
レイが真っ赤な顔で固まった。
ま、フランスだし、いいか。
インタビューはえらく盛り上がり、そのまま外国部門の表彰となった。
外国部門優秀賞は映画の受賞だから、オリバー監督が代表で授与された。
俺は個人に贈られたので勿論、俺がブロンズ像を受け取った。
そして。
最優秀賞の受賞に移るので、一旦俺たちは降壇することになった。
最後に受賞者全員がまた登壇し、記念撮影やらなんやらやるらしい。
時間が押しているのか、ブロンズ像を受け取り、俺が元の場所に戻る前に降壇が始まった。
レイが指示に従い、先に移動させられた。
横には、ウィリス…。
それだけで、苛立つ気持ちが沸いてきた時。
レイが少しふらついた。
あっ、と思った時には、ウィリスが支えていた。
咄嗟のことで、レイはウィリスのタキシードの裾に掴まり、体勢をかろうじて保った。
慌てて駆け寄る。
「レイ、大丈夫か?」
体勢を立て直したレイの手を取る。
レイが心なしかホッとした表情になった。
「やっぱり、ちょっと緊張したみたい。」
そう言ってレイが繋いだ手を俺の腕に絡め直した。
「ウィリス、ありがとう。」
嫌なやつだけど、レイが転倒しなかったのは、咄嗟に支えてくれたウィリスのおかげだ。
礼を言うと少し驚いた顔をした。
レイも続けて礼を言う。
「あんなことがあったのに、咄嗟に助けてくれてありがとう…仕返しは、もう、これでないから。」
「え。いいのか?」
ウィリスが驚いた顔をする。
「うん、もうこれでないから。」
繰り返しレイがそう言った。

