「はーいじゃ、今日もお疲れ!!」

生物の生田目先生の号令で午前中の授業が終わった。

座りっぱなしで固まった背中をぐーーっと伸ばして、ふぅと息を吐く。
生物嫌いじゃないはずなんだけど、生田目先生とはどうも相性が悪い……。
進級してから生物の時間があんまり楽しみではなくなってしまった。

「ハルー、帰ろっ」

ぼけーっとそんなことを考えていると、あかりにばしーんと背中を叩かれた。

「痛いよー」

「ごめんね?」

「絶対謝る気ないじゃん」

「うん」

「うんじゃないよ、あかりさん。まぁいいや、帰ろー」

選択教室からの帰り道、あかりが『あっ!!』っと突然声を上げた。
視線の先にはあかりの彼氏さん。

みるみるうちにあかりの頬は真っ赤になっていく。

「声かけなくていーの?」

「かけないよっ!!」

「えー?」

「ぜったい嫌だから!!」

あかりは彼氏のことになるとめちゃくちゃ、乙女になる。
恥ずかしがって自分から話しかけたりできないし、姿を見つけただけで顔は真っ赤になるし。
女の子なんだなぁってしみじみ感じる。
なんだかちょっと羨ましい。


「檜佐木先輩〜」

「ちょっとハルっ!!」

おーいとあかりの彼氏こと檜佐木先輩に手を振る。

「あ、金井さん。と、あかりだ」

先輩はにこっと笑ってこちらに歩いてきた。
相変わらずイケメンだなぁ。
茶道部部長で勉強ができるハイスペック男子な檜佐木先輩。

あかりとの馴れ初めは話すと長いからあえて触れないけど、なかなかロマンチック。そして二人は、学校公認のラブラブカップルとして有名。

「生物だったの?」

「……は、はいっ」

「あかりの苦手科目だ」

「先輩〜っ!!」

ほら、仲良し。
私はいつも蚊帳の外になってしまう。
三島由紀夫の『白鳥』もそうだけど、本当に恋は盲目なんだなって思う。

「あかりさん、あかりさん。お昼、先に行ってるね」

「え、あぁ、うん」

「あ、檜佐木先輩。あかりと二人で食べたかったら来なくてもいいですよ〜」

「えー、じゃあ今日はそうしようかな。涼にもよろしく言っておいて?」

「はーい。ではでは」

「またねー、金井さん」

「じゃ、あかり後でね」

「う、うん」

あかりに手を振って教室に向かう。


そういえば、涼ちゃんと二人でお昼は久しぶりだなぁ。

涼ちゃんは檜佐木先輩と同級生で私の幼馴染。
そんなつながりもあってか、お昼はいつも4人で食べている。