ヴァンタン・二十歳の誕生日

 私は、自分の血が鏡を再生すると信じて捧げた。

はずだった。


でも結局鏡は再生しなかった。


「所詮偽りの鏡なのか?」
パパが崩れ堕ちた。


「偽りの鏡?」


私は自分の血を捧げた鏡の前で立ちすくんでいた。


「乙女の鮮血って一体何なの!?」
私はパパに激しい感情をむき出しにしていた。


「パパを助けたいのに……私の血では駄目なの?」

パパは困り果てていた。


パパが悪い訳じゃない。


(解ってる!)

私は偽りの鏡の前に崩れ落ちた。


合わせ鏡から写し出された虚像の魔法の鏡の前で。


(虚像? つまり、実体が無いってこと?)




 「そうか?」
私は其処に写った魔法の鏡に何かを感じた。


「もしかしたら?」
私は私の血を捧げた鏡を触ってみた。


「パパ解ったわ。この鏡は映像だからよ。だから駄目だったのよ」


「そうか本物の鏡でなければ駄目だって言うことか」

私は頷いた。


「パパ家に帰ろう」
私は力強く言った。




 パパは操舵室へ急いでいた。
足かせが邪魔をして時々転びながらも、一生懸命パパの出来ることをやろうと。


私とチビはその盾になることを誓った。
パパを母の元へ帰すために、家族で帰るために。




 パパは操舵室で戦っていた。
船を港に戻すこと。
それだけを目標に。


私は骸骨と戦っていた。

パパの操縦の邪魔をさせないために。


チビも隣で戦っていた。
パパから教えて貰ったフェンシングの技で。

あの人もパパのために戦ってくれていた。


(私達はパパの弟子だった。だからあの人は強くなれたのだ。パパの言葉を信じて、努力に努力を積み重ねて……)

私は成長した青年を頼もしげに見入っていた。




 「いいか良く聞くんだ」
パパが叫んでいる。

私達はすぐ傍に駆けつけた。


「もし鏡が再生して脱出出来たら、すぐに鏡を覆い隠すんだ。パパは何とかなる。だから解ったな?」




 合わせ鏡によって、操舵室の前に映し出された魔法の鏡。


その映像が家に戻る手掛かりになると思われた。


満月の光に導かれ、大型客船は静かに港を目指し始めていた。
その先に、ボートを漕ぎ始めた港があると信じて……
更にその先に、我が家があると信じて……


「大丈夫だ。パパを信じて……」

パパが力強く言い放った。